来年の事を言えば刀が笑う~文系理系本丸の年末~②
【12月28日】
年の暮れ、たちは大掃除に取り組んでいた。大掃除は、28日までに済ませるのが昔からの習わしらしい。だから、は歌仙や長谷部、光忠と相談し、月の半ば頃から掃除を始めたのである。
そして、本日迎えた総仕上げ。出陣や馬当番、畑仕事がない刀剣男士たちは、固く絞った雑巾を神妙な面持ちで手に取り、じっと見つめていた。
「分かってるな」
「ああ」
「負けられない」
「これは男の戦いだ」
「腕が鳴るぜ」
「何で俺まで……」
大広間には、鶴丸国永、鯰尾藤四郎、骨喰藤四郎、愛染国俊、鳴狐、和泉守兼定がいる。彼らは最後の6列で、雑巾掛けレースを行おうとしていた。体格の差を考慮してハンデを設けるなど、かなり本格的だ。
ちなみに、この雑巾掛けレースを提案したのは、鶴丸である。
「一番最後に終わったやつは、31日に一発芸でもやってもらおうか」
「1位になったら、主から褒美を貰っていいんだよね」
「頑張りましょうぞ、鳴狐」
「絶対俺が勝つからなー!」
雑巾を広げ、各々開始位置に着く。愛染は短刀なので、他の刀剣たちより開始位置が短めである。
「……そういえば、主から許可は取っているのか?」
「ん、何のだ?」
「褒美の話だ」
骨喰が鶴丸へ素朴な疑問をぶつける。言い出しっぺなのだ、まさか許可なく言い出したわけでは、
「いや、取ってないな」
……骨喰はやや呆れたような視線を投げ、隣にいた鯰尾と目配せする。鯰尾は鯰尾で「大丈夫でしょ、主は優しいから」と朗らかに笑った。
「欲しいものくらいなら買ってくれそうじゃない?」
「そうだろうか」
「鯰尾の意見に一票。俺もそう思う」
「おい。言い出しっぺ……」
キラキラした瞳で語る鶴丸は、雑巾を片手に己が願望を口にする。
「俺が1位になったら、今剣みたいなことをしてみたいものだ」
「之定に怒られるから止めとけよ」
「その通り。歌仙殿もですが、さすがに主殿に怒られます」
「君たちは、あの乳をつついてみたいとか、思わないのか? 俺はある」
「はいはい、俺も俺も」
「兄弟……」
骨喰と鳴狐は、絶対に鶴丸と鯰尾の手から主を守ろうと誓った。
「なあなあ、まだかよー! 早くやろうぜー!」
愛染が焦れた。煩悩には縁遠い刀剣男士の存在は、鳴狐と骨喰、和泉守にとってはありがたい。
六振りは、スタート直前の短距離選手のように構えた。
「いよーし! 負っけないぞー」
「……負けない」
「頑張りましょう、鳴狐!」
「兄弟を止めないと」
「之定のためにもな……」
「ははは、負ける気がしないな」
「準備はオッケー?」
合図を出すために、鳴狐についてるお供の狐が、するりと彼の肩から降りた。
「さあさあ、皆様よろしいでしょうか。勝てば天国、負ければ地獄。雑巾れえすの開始と相成ります。用意!」
――はじめ!
さて、結果はどうなることやら……。