来年の事を言えば刀が笑う~文系理系本丸の年末~③
【12月29日】
年末の審神者や刀剣男士たちは、何も掃除だけにかまけているわけではない。遡行軍との戦いと同時に、「連隊戦」と呼ばれる戦いに参加していた。
“次々に襲いかかる敵部隊に、連隊を編成し立ち向かう”。戦況がいつどうなるかは分からない。もしかしたら、夥しい数の敵と戦い続けるかもしれない。それこそ、本丸の総戦力で対抗するような……。この連隊戦はシミュレーションの一貫ですね、と言ったのはの弁だった。
まあ、政府も審神者たちがやる気を出すよう様々な報酬を用意している。「御歳魂」と呼ばれるアイテムを集め、その数に応じて便利なアイテムや刀剣男士と交換出来るのだ。
今回の目玉は恐らく、源氏の重宝と称される「髭切」「膝丸」だろう。は「可能ならお迎えしたいですけど、まずは皆さんが強くなるのが大事ですから」と、連隊戦の編成を組んではいたが、
「主への手土産に、必ず源氏の重宝二振りを連れて帰るぞ!」
妙に張り切ったのがへし切長谷部である。
この機会を逃せば、いつまた迎え入れられるかは不明だが、は御歳魂集めにそこまで積極的ではなかった。冷徹との一件もあって、刀剣たちにはいらぬ苦労をかけたばかりだったからだ。いつものように遡行軍との戦いもあるが、何より年末である。彼らと初めて迎える年末年始は、心安らげるものにしたかったのだ。
しかし、長谷部は違った。に喜んでもらいたい(あわよくばそれで褒めてもらいたい)。その一心で、彼は遠征部隊から連隊戦の部隊に移ることを志願し、御歳魂集めに奔走しているのだった。
「難易度・普」の戦場にて、連隊戦用の第一部隊が戦闘を終えようとしていた。
「見るからに張り切ってますね」
「そうだね」
「主は『絶対に連れて帰れ』って主命下したわけじゃないのにな」
「だなー」
小夜左文字、宗三左文字、獅子王、御手杵の面々は、疲労のひの字すら見せない長谷部の背を追いかける。
「そもそも、今日が初日ではないですか。あの調子で約20日も保つのでしょうか。見ものですね」
宗三がそう漏らすのも無理はない。徹夜明けのようなテンションで敵を斬り伏せる長谷部には、正直ちょっと――いや、かなり引く。
「俺もそう思ってるけどさ、ああなったら長谷部、止まらないんじゃないか?」
「だと思います、獅子王さん」
「むしろ、いっそ潰れてしまったらいいと思いますけどね」
宗三がツンとした態度でそんなことを言う。しかし、
「どうだろうね? アタシ、長谷部は疲れても素直に休むとは思えないんだよねえ」
長谷部とはそれなりに付き合いの長い次郎太刀が、背後から襲撃してきた敵を薙ぎ払った。最後の力を振り絞った奇襲だったのだろうが、満身創痍の短刀一振りが大太刀に敵うはずもない。
「あーあ。ほら、こうやって敵にトドメ刺さないうちに進んじゃうんだもん、しっかりして欲しいもんだよ。おちおち呑めやしない」
「いや、呑むなよ」
「じょーだん、じょーだんだって」
「それよりあなた、長谷部が素直に休まないとは?」
五振りは小走りで次の戦場へと向かう。宗三はますます不機嫌になりながら、次郎太刀へ問うた。
「アタシらの疲労ってさ、主のぱそこん、たぶれっと? なんか、そういったもので目に見えるようになってるよね」
「ええ。そうですね」
「橙色と赤色の印が出るけどさ、いつだったかな? 長谷部、赤疲労なのに出陣して主に相当叱られたんだけどさ。『まだ行けます』って懲りなかったんだよ」
しかも、赤疲労のステータスを隠して出陣したこともあるらしい。どうやっての目から逃れているかは不明だが。
あまりのことに、宗三も獅子王も御手杵も絶句する。小夜はといえば、本丸の古株であるからして、当時のことは鮮明に覚えているらしい。
「ありました、そんなこと……」
「うえー。何て言うんだっけ、こういうの」
「あ、俺分かる。確か“社畜”」
最近やって来た博多藤四郎が「24時間戦えます」と発言していたことだし、黒田家にいた刀剣男士はそんな社畜根性があるのかもしれない。
「はあ……。早く彼に追いついて、一旦方向性を確認しましょうね。疲れていると折れやすいらしいですし、いざとなったら主に連絡をして、主命でも下してもらいましょう」
仲間が折れるのは見たくない。せっかくまた、こうして巡り会えたのだから。