来年の事を言えば刀が笑う~文系理系本丸の年末~④
【12月30日】
「おかしい」
「君の部屋はおかしい」
「私もそう思います」
「何がどうなればこうなるのか」
「四次元ポケットならぬ四次元部屋……」
明日で大晦日だというのに、の部屋は全く片付いていなかった。本やら何やら細々したものが増えた自室を整理しているのだが、物が一向に減らない。よくこの部屋にこんなに物が入ったなと歌仙兼定は驚いている。例えるならば、10個入る部屋に50個物を詰め込んでいるような感覚だ。とはいえ、俗世で言う「汚部屋」ではないことは確かだ。整理整頓が上手いから詰め込めたのかもしれない。
「断捨離しようとしているのに、どうしていらない物ボックスに物が入らないんでしょうかね」
「僕に言われてもねえ……」
も歌仙も途方に暮れている。
「いる物ボックス」、「いらない物ボックス」と名付けた段ボール箱に仕分けする算段だったのだが、にとっては9割がいる物らしい。
「ちなみに主。これはいるのかい?」
歌仙がいる物ボックスから拾い上げたのは、あの同期の審神者「冷徹」が渡してきたプレゼン資料“結婚して起こるメリットとデメリット”である。……どう見てもいらない。
「あ。……そうですね、いらないですね。どうしてそちらに入れたのかしら。もう用はないものなのに」
「結婚、しないんだろう?」
「ええ。お友達から始めてますよ。でも、結婚相手にはなりません。私は、あなた方の主として、来年もここに居ますからね」
「そうかい。それなら、良いのだけれど」
紙束は歌仙の手を離れ、いらない物ボックスへ吸い込まれていった。どこか満足そうな表情だが、指摘するだけ野暮だろう。
「それから、これは?」
「それは捨てられませんよ。数学の参考書、案外役に立つんですから」
「君はもう学生じゃないのに?」
「あ、その折紙は捨てないで下さい。短刀たちが初めて折った鶴なので!」
「やれやれ……」
この調子では終わるのは来年になってしまうだろう。でも、それはそれで良いのかもしれないな、と歌仙は思う。
主が物を大事に扱っている。それが分かって、少し嬉しいのだ。付喪神は、長い年月を経た道具に霊魂が宿ったもの。歌仙だって、刀の付喪神だ。はきっと物を粗末に扱うことはない。それが改めて分かっただけでも、手伝ったかいがあるものだ。
仕分け作業をするの姿を見つめていれば、ふいに彼女が手を向けて、こちらを振り返った。
「何ですか」
「いいや、何でも。手伝うよ」
「ありがとうございます。あ……そういえば、」
「そういえば?」
「兼定さんは、ご自分の部屋は掃除されました?」
「ああ。やってきたよ」
隣に座って仕分けしている歌仙の顔を、は覗き込む。
「本当ですか」
「何で念押しをするんだい、主」
「いえ。小夜君から聞いたんですけども」
「ああ」
「兼定さんは蒐集家だから、部屋には茶器やら武具やら骨董品やらで溢れていると報告があったんですが――って、兼定さんどうして逃げるんですか? 待って下さい、あなたも断捨離が必要なのでは!?」
その後、歌仙の部屋も容赦ない断捨離が行われたとか行われなかったとか。