来年の事を言えば刀が笑う~文系理系本丸の年末~⑤



【12月31日】


「源氏の重宝、髭切さ。君が今代の主でいいのかい? ……ありゃ、今回はまた珍しい所に来ちゃったなあ」

 へし切長谷部たち連隊戦のメンバーが拾ってきたのは、「難易度・超難」の戦場にて稀に現れる刀剣だった。
 歌仙と連隊戦の第一部隊が見守る中、は自室で刀剣を顕現させた。季節外れの桜が舞う中、刀剣は白が印象的な男性の姿へと変わった。他の刀剣男士に負けず劣らず、眉目秀麗な顔立ちである。

 彼こそが、連隊戦の確定報酬となっている「膝丸」の兄にあたる「髭切」だ。

「初めまして、髭切さん。私がこの本丸の主であり、あなたの持ち主です。これからよろしくお願いします」
「やぁ、君が僕の主なんだね。よろしくね」

 のんびりとした口調でに答えた髭切は、身体を持てたことが不思議なようで、服やら髪やら触っている。

「白いな」
「鶴丸には負ける」
「随分のんびりとした御仁刀ですね」
「源氏、源氏か」

 歌仙はちらりと獅子王へ視線を向けた。

「君の前の主は、確か源頼政、だったかな」
「そうだぜ! ちなみに、じっちゃんは源頼光の玄孫」
「へえ、君も源氏なの? 嬉しいなあ、縁ある子と会えるなんて」
「俺も俺も! なあ、主。俺が本丸の案内していいよな?」

 獅子王の瞳は星のように輝き、言葉もボールのように跳ねている。髭切を連れてきてくれたのだ、今日はもうこれ以上出陣する必要もあるまい。

「ええ。獅子王さん、よろしくお願いします。長谷部さん、あなたたちも今日は休んで下さい。連隊戦が始まって間もないというのに、よくやってくださいました」
「恐れ多くも。ありがたき幸せ。しかし、まだまだ行けます」
「いえ、休んで下さい。年末年始まで酷使するつもりはないんです」
「いえ、まだまだ行けますよ」
「あの、疲労が結構溜まっているの分かっているんですからね」
「関係ありません」
『いいから休めよ!!』

 長谷部以外の刀剣男士たちが揃ってツッコミをいれた。
 が「3日間しっかり休むこと」と主命を下したのは言うまでもない。


***


「はあ……」

 結論から言うと、28日に行われた雑巾掛けレースの勝者は鳴狐、敗者は鶴丸国永だった。

「いやー、参った。俺が最下位とはなあ……」

 驚きは驚きなのだが、褒美が貰えないのは些かつまらない。

 鶴丸は特に料理の手伝いをするわけでもなく、厨房に立つ燭台切光忠の背を眺め、愚痴をこぼす。唇を尖らせたその顔は、幼い子どものようにも見える。

「どれ、一発芸でもやってやるか」
「いやいや、鶴さん。鶴さんの場合は一発芸がドッキリの類いになるからやめた方がいいよ」

 光忠が慣れた手つきで大根を桂むきしながら、鶴丸を窘める。

「光坊までそんなことを言うのか? 伽羅坊にも似たようなことを言われたんだが」
「えっ、そうなの伽羅ちゃん」
「……さあな」

 大倶利伽羅は大倶利伽羅で、重箱に黒豆を詰めていた。3日前ほどに煮返した黒豆は味がしみて、いい塩梅になっているはずだ。

「年始年末くらい静かにしていれば良いだろう」
「それじゃあつまらないだろう?」
「どうでもいいな、と言いたいところだが。いつも巻き込まれて迷惑しているんだ。全く、馴れ合うつもりはないというのに」
「んん? しかし光坊の手伝いは馴れ合いにならないのか?」

 大倶利伽羅は手を止め、鶴丸としばし見つめ合った。
 数十秒の沈黙ののち、

「……さあな」

 と、再び大倶利伽羅が黒豆を詰める作業に戻る。

「ははは、今更気付いたけど手伝いをやめるわけにもいかず、素っ気ない言葉で誤魔化したってところか?」
「うるさい」
「そうだよ、鶴さん。伽羅ちゃんはいい子だから、あまりからかわないであげて」
「光忠!」

 それはあまりにもフォローになってないフォローだった。