来年の事を言えば刀が笑う~文系理系本丸の年末~⑥
【12月31日】
「……おや、寝ないのかい?」
「ええ。久々にお酒でも呑もうかと」
「なるほど。隣、良いかい?」
「ええ、もちろん」
歌仙は、縁側に座っているの隣に腰掛けた。
もうすぐ新しい年が来る。遠征中の刀剣男士以外は、本丸にて各々好きなことをしている。テレビで歌番組を観たり、携帯ゲーム機で対戦したり、酒盛りをしたり様々だ。
ちなみに、鶴丸は一発芸の一環として鳴狐から狐を借りて腹話術を披露した。が、結局狐が勝手に喋ってしまうので失敗に終わってしまった。
鳴狐といえば、褒美として主と一緒に出掛けることになったので嬉しそうだった。も断る理由がないので了承したのだが、歌仙がとても不満そうだったので、ちょっとだけそれが気になった。近侍だから当然彼にもついてきてもらう予定なのだが……。
本丸の外はすっかり夜で、庭には雪が積もっている。澄んだ空気が肺に入って凍りつきそうだが、アルコールが身体を温めてくれる。
歌仙は黙ってに自分の羽織りを肩にかけてやった。自分はともかく、の身体を冷やしてはいけないだろうという気遣いだ。
「ありがとうございます」
は微笑んでお礼を言った。そして、グラスに残った酒をぐいっと一気に飲み干した。そうでもしなければ、照れ臭さで心にもない憎まれ口を叩いてしまいそうだったのだ。
「兼定さん」
「なんだい?」
「今年も色々ありましたね」
「そうだねえ……。君と出会ったのは桜が咲く頃だったかな。この本丸はヒトが少なくて、ひとつの物音でも寂しく木霊するほどだった。けれど、今はどうだい? こんなににぎやかじゃないか」
確かに、春の頃、審神者になりたての頃では想像すら出来なかった。こんなに本丸がにぎやかになり、刀剣たちと本当の家族のように生活出来るとは思いもしなかった。
「ええ。戦いの最中ですけど、こんなに楽しい時間があるなんて……」
もちろん、楽しいことだけではなかった。辛く苦しいこともあった。
「あのですね、兼定さん。私、日の出なんて意味がないと思ってたんですよ」
「うん?」
いきなり何の話なのだろう、と歌仙は首を傾げる。
「どういう意味かな」
「新年に見る日の出を初日の出、というでしょう? でも、それは人が勝手に名付けてありがたがっているだけです。12月31日に見る日の出も、1月1日に見る日の出も、何ら変わってないんですよ」
「……君らしいね」
確かにそうだ。日は沈んで昇るだけ。365日繰り返される。特別なことではない。
「今までは、そう思ってました。だけど、だけどですね。最近は、初日の出を拝むのも風流ってものだと思い始めまして」
「主、それって……?」
互いに目が合った。
いつ以来だろうか、こうしてじっくり顔を見るのは。
「あなたと出会わなかったら、そんなこと思いもしませんでしたよ、きっと」
――だから、あなたに出会えて良かった。
「来年も、よろしくお願いしますね。兼定さん」
「ああ、もちろん。君の刀だからね」
いや、そんなことを言いたいわけではなくて、
「主、僕は」
「はい?」
「僕は、」
「……」
「僕のことを、」
あの日の返事を聞きたくて――
「ちょっとちょっとー! 2人とも飲んでるーーー?」
「きゃあ!?」
「うわあ!?」
ガシッと片側の肩を掴まれ、酒臭い息がかかる。
「あ、次郎太刀さん!?」
「あーあ。ごめんねえ、歌仙君。いい雰囲気だったのにね」
「にやにや笑うんじゃない、青江」
「主も1杯どうだ?」
「あるじさまー、あそんでくださーい」
「大将、」
「主君!」
振り返れば、大広間にはこれまで出会ってきた刀剣男士たちがおり、口々にを呼んでいる。
「僕らの主は人気だね」
「嬉しいものです」
と歌仙は揃って笑みを零す。
「行こうよー」
「ええ、行きましょうか」
「やれやれ」
今年の年越しは、今までで一番にぎやかだ。
「皆さん、来年もどうかよろしくお願い致します」