皆とお昼寝



【小夜左文字、希望を胸に のあと】




「うわっ、びっくりした! 何か踏んづけるとこだった……あ、」

 鯰尾藤四郎は、主の部屋に来て驚いた。障子を開けた途端、何かふわふわしたものに足が触れたからだ。

「白い小虎……。あ、」

 視線の先には、布団に包まって眠る主と、小夜左文字。そして五虎退。

 よし、俺も寝よう。

 鯰尾藤四郎は、布団を敷いた。主の真上に敷いた。起きたら頭をぶつけないようにしないとな、と考えながら。


***


 加州清光は悔しかった。大好きな主と一緒に過ごそうかと思って部屋に訪れたら、既に先客がいたのだ。

 皆、気持ち良さそうに寝ている。

「ちぇっ、」

 紅い目を細め、小さく舌打ちをした。

「何だよ、主さん」

 加州清光は、本当に、本当に不服ながらも、鯰尾の布団に潜り込んだ。主の髪の毛を梳いて、いくらか気持ちは楽になる。

「……女が男の髪を梳くのは睦み事の後、ってね」

 俺が梳くのは面白くない。主が梳いてくれたら、こう言ってからかおう。加州清光はそう思いながら、眠りについた。


***


「こいつは驚きだねえ」

 鶴丸国永はにやりと笑った。我が主の姿が見えないと思ったら、こんなところで寝ていたとは。

「しかも、刀剣にわんさか囲まれているとは。はは、どいつも無防備に寝やがって」

 主は驚かせても眉ひとつ動かさない。無表情というわけでもないが、そういったことには、こちらの望む反応を返してくれない。むしろ、いつも自分が驚かされてばかりだ。

 どんなことをすれば、この審神者の顔を崩せるだろうか。

 それを試行錯誤するのが、彼の楽しみであった。

「さて、どうするかな」

 主の両脇は、しっかり短刀が守っている。主の上には寄り添いあって眠る加州清光と鯰尾藤四郎がいる。

「そうだな、俺が短刀ごと抱えればいいかもしれんな」

 五虎退がいる側から布団に入り、小夜左文字ごと己の方へ抱き込む。誰も起きない。まだ、夢の中のようだ。

「起きたら俺と目が合うのは驚くだろう」

 短刀に挟まれた主を見ながら、鶴丸国永は大きな欠伸をひとつした。


***


「何だろうね、これは」
「さあ」

 手合わせから戻ってきた歌仙兼定とへし切長谷部は、主を囲むようにして眠る刀剣たちに困惑した。しかも。主の布団の上に五虎退の虎が丸くうずくまっている。猫のようだ。

「俺には、主が慕われて寝ているように見えるが」

 長谷部が呟く。

「そうかい。僕にもそう見えるね」

 どうりで本丸が静かなわけだ。ほとんどの刀剣が、主の部屋に集まって昼寝をしているのだから。

「皆、主を好いているのだな」
「気持ちは分からなくもないよ」

 歌仙は溜め息をついた。人望のある主だが、会話をすると言い争いが耐えないので、最近素直になれないのである。

「気の毒だが主を起こそう。君は、他を頼む」
「ああ。ほら、起きろ。もう日が暮れるぞ」

 歌仙は気持ち良さそうに眠る主へ近付いた。

 鶴丸国永の腕が気になる。
 小夜左文字の握る手が気になる。
 五虎退が背中に引っ付いているのが気になる。
 髪を握る加州清光が気になる。
 へし切長谷部も鯰尾藤四郎も。

(主は本当に、罪な人だ)

 起こそうと伸ばした手を止める。そのまま主の額に、親指と中指をくっつけた形で近付けて――

 デコピンをかました。

「さあ、起きるよ。夕餉の支度をしよう」

 少し気が楽になった歌仙は、優しい声で主を呼んだ。