岩融、気付く
「主は何をしているんだ」
「こんにちは、岩融さん。猫が木から降りられないみたいで、助けようと思ったのですが……」
「ははあ。主も登ったら降りられなくなったのか。大声で呼んだら、誰ぞ駆け付けただろうに」
「人を呼ぶにも呼べなくて……」
「ん?」
「さ、さすがに……まぬけじゃないですか? その、主ともあろう私が猫と同じことになるなんて……恥ずかしくて恥ずかしくて」
「はっはっはっはっはっ! 確かにそうだな。いや、しかし。堅物だとばかり思っていたが、主は案外、普通のおなごなのだな」
「私も感情くらいは持ち合わせていますよ?」
「そうかそうか。どれ、俺が降ろしてやろう」
「わっ、」
俵担ぎにされるかと見構えたが、岩融は意外にもお姫さま抱っこで主を降ろした。
「おおー、軽い軽い。風に拐われていきそうだ」
「少しびっくりしましたよ、もう。ありがとうございました、岩融さん。ふふ。この猫も喜んでいるのでしょうか。あなたを見て鳴いてますよ」
「……おお」
「岩融さん?」
「主は、小さい小さいと思っていたが……」
「はい?」
「そうか。小さいのは背だけのようだな?」
「はい?」
「…………抱き心地はなかなかだ」
「岩融さん?」
ひとり納得する岩融と、訝しい顔をする主と、暢気に鳴く猫。
彼女は知らなかったのだ。岩融が彼女を降ろしたとき、少し胸に触れてしまったのを。
彼女は知らなかったのだ。岩融の大きいは、それを指していることを。
「今剣が気に入はのもよく分かるぞ」
「私は何がなんだか分からないのですが……ねえ、猫さん?」
その声に答えるように、助けられた猫は「みゃーう」と鳴いた。