はじまりの日
(穏やか。だけど、うちに秘めたる思いは熱い)
「その刀剣にされますか」
こんのすけが呟く。新米の審神者に懇切丁寧に説明してくれる白い狐だ。
彼女――が手に取った刀は「歌仙拵」と呼ばれる。まるで小さな星をいくつも鞘に散りばめたかのようだ。
「その刀剣は『歌仙兼定』。最初に支給する打刀は、それでよろしいですか?」
「はい。これです。この刀剣を、私の最初のパートナーにしましょう」
静かにこんのすけに頷いてみせる。審神者たる彼女は、両手でそれを持ち、目を瞑る。眠っている刀の想いを、力を引き出す。
(私に力を貸して)
想いの洪水を潜り、沈む。沈む。
澱に辿り着く。
小さな光を見いだす。
(眠っているあなたの力を、貸して下さい。私の技で戦えるように姿を与えましょう)
視線の先には、掌に収まる程の小さな光が浮遊していた。の言葉が届いたようで、蛇行しながらこちらに向かってきた。
やってきた光を両腕で抱き止める。薄暗い闇の中で、それは周りを照らし始め、やがて……光の洪水を起こした。
「やあ、初めまして」
その声に、は目を開けた。彼女の隣でこんのすけが「成功でございます。さすが審神者様!」と祝福してくれた。
紫色の髪を持ち、随分と洒落た格好をした男が、水晶のような瞳をこちらに向けている。
「僕は歌仙兼定。君が僕を呼んでくれた、ということでいいのかい?」
「そうです。私があなたの新しい主です。名前は、と申します」
「この姿を取ることが出来るなんて思わなかったよ。中々雅な格好で出てこられたね。ああ、主殿。僕は風流を愛する文系名刀さ。どうぞよろしく」
歌仙が握手を求めて右手を差し出したので、もそれに倣う。
(文系……。果たして、上手くやっていけるでしょうか)
眉をひそめて握手を交わす。杞憂で終われば良かったのだが。残念ながら、後々現実のものとなる。
何故なら。
新しく審神者となったは、理系の人間だったのだから。