前兆②
――私を見ていてください!
だから、お願い。
どうか、どうか。
***
「本当に申し訳ない!!!」
ナンバーワンヒーローに平身低頭で謝罪されるイベントが発生している。
「いやいやいや!! オールマイトさん、仕方ないですよ! このための副々担任なんですから!」
ここが仮眠室でよかった。平和の象徴が平謝りしてる光景、生徒には見せられないよ。
「午後の人命救助訓練は、オールマイトさんの代理で私が行くので! 校長先生からもオッケー降りてます。任せてください!」
「すまない……」
すでに現場へ向かっているイレイザーさんと13号さんには、オールマイトさんが電話で伝えておくそうだ。
「それに、救助は私の専門分野でもありますから。今日の授業は適材適所かと!」
オールマイトさん、とても落ち込んでる。
今日の授業が3人体制なのは、以前のマスコミ校内侵入事件があったからだ。校門が破壊された件といい、念のため教師の人数を増やして授業を行う方針を取ることにしたわけで。
まあ、私もオールマイトさんの立場なら落ち込むかも。自分の体調管理が甘くて担当変わってもらいました、って感じだよね。うん、地面に頭めり込むくらい土下座するかも。
でも、やってしまったことはしょうがない! ので、気持ちをすぐに切り替えないといけない。
「大丈夫ですよ、オールマイトさん。失敗は誰にでもあります」
次同じことしなきゃいいんですから、とオールマイトさんを励ます。
「それに、私もオールマイトさんと同じく、教師としてはまだまだ新入生みたいなものです。新人故の悩みは分かるつもりですので、いつでもご相談ください! ……なんて、あはは。生意気なことを、」
「いや。……ありがとう、くん」
オールマイトさんにお礼を言われてしまった。
ナンバーワンヒーローとこうして面と向かって話す機会はなかったので、不思議な気持ちになる。
そうか、オールマイトさんだって、失敗したり悩んだりするよね。私と同じ人間だから。
あ、そうだ。
「オールマイトさん」
「どうしたんだい?」
「会を結成しましょう」
「結成?」
「名付けて『新米教師の会』」
「そのままだね?」
「そのままですね……。おほん。この会のメンバーは新米教師のみ。教育者としての在り方に悩んだり、愚痴を零してみたり、何でもありの会です」
私は人差し指をピンと立てる。
「活動は月2回。仮眠室で、お互いにお喋りしませんか。気晴らしになると思うんですが、いかがでしょうか」
去年、私は思ったのだ。新しく赴任してきた教師はいたけれど、学年も科も違うからなかなか話をする機会がなかったなと。心細かったし、何よりすぐに教師として相応しい振る舞いをしていたので、私の至らなさに凹んでしまったのだ。
せめて仲間がいたらな……、と何度思ったことか。
「もちろん、オールマイトさんが嫌ならこの話はなかったことに」
「とんでもない! 是非その会を発足しようじゃないか。とりあえずは、私とくんで」
「はい! よろしくお願いします」
乗ってくれてよかった。この会がオールマイトさんにとって息抜きになればいいな。
***
「――で、オールマイトの代わりお前が?」
「はい。そのための副々担任ですので!」
「代理はさんでしたか! これは頼もしい! よろしくお願いします」
「よろしくお願いします、13号さん!」
授業開始前にはUSJに到着できた。
ちなみに、USJは13号さんが作った演習場で「嘘の災害や事故ルーム」の略なのだそうだ。某テーマパークとは関係ない。
イレイザーさんはというと、私をじいっと見つめていた。今朝のことを思い出して私はどぎまぎしてしまう。
――今日、帰り。絶対ハグするからな。
あの宣言を思い出して落ち着かない。
集中して、私。演習始めるんだよ!
「イレイザーさん、私に何か」
「……何もないが」
イレイザーさんはいつも通りだ。私が意識し過ぎなんだろうか。
イレイザーさんは生徒たちの方へ向くと、演習の始まりを告げた。続けて13号さんが演習前の注意事項を口頭で説明する。
「えー、始める前にお小言を1つ2つ3つ……4つ……」
13号さん、増えてる増えてる。
「皆さんご存じだとは思いますが――」
13号さんは自身の“個性”「ブラックホール」を例に、私たちが持っているものは人を殺せる力だと言った。
何もかもを吸い込んでチリにしたり、超パワーを振るったり、爆発させたり、動物のような能力を得たり、確かに“個性”は一歩間違えれば人を殺せてしまう。
「――君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。救けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」
さすが13号さん! 素晴らしいことをおっしゃる!
「以上! ご清聴ありがとうございました」
13号さんが恭しくお辞儀をした。
生徒につられ、私も拍手を送る。ブラボーと言いたくなるよね、分かる。すごく分かる。
「さすがです、13号さん。災害救助で活躍するヒーローとしてとても勉強になります」
「さんも何かお話されますか?」
「え、私からは特には……! 13号さんのいいお話の後に私の話なんて、蛇足ですよ!」
多分アガって何も話せない。そんな謎の自信があります。
「。少し打ち合わせだ。こっちに」
「はい、イレイザーさん」
「そんじゃあまずは……」
――ズズッ。
小さな異音。
「今、何か……?」
「……?」
イレイザーさんも私と同じく異変を感じたらしい。弾かれたように噴水のある方へ注目する。
黒い何かが出現する。
――これ、穴だ。
どんどん広がって大きくなって、
禍々しさを纏った謎の人物が、その姿を現す。
あれは、敵!
「イレイザーさん、」
「ひと塊になって動くな!」
瞬間、黒い霧が帯のように広がり、そこから大量の敵が出現した。
「13号!! 生徒を守れ! !! 俺に続け!」
イレイザーさんが鋭い声で指示を飛ばす。
「何だアリャ!? また入試ん時みたいな、もう始まってぞパターン?」
突如現れた謎の人物たち。当然生徒たちは、事態を把握しきれていない。
「動くな。あれは」
イレイザーさんはゴーグルを装着した。
「敵だ!!!!」