はじまりはベッドの上①


 その日、ベランダから見た夜空は、泣きたくなるほど美しかった。

 小粒のパールを散らしたような星と、金色に輝く満月。
 ありふれた日の、ありふれた風景。
 いつもなら、気にも留めなかった。
 それなのに、涙が流れてくる。

 ああ、ひとりぼっちになっちゃった。

 天涯孤独になった私は、自分自身を抱きしめる。
 漠然とした不安。そして、悲しみ。
 向き合うことが、まだ、できない。

 ずずっ、と鼻を啜る。
 視界の端に、輝く何かが通り過ぎていく。

「――流れ星」

 初めて見た。

 短く切ない一筋の光。
 瞬きしたら消えていく。

 涙で滲む夜空はぼやけていた。

「消えるまでに願い事三回言えたら叶う、か」

 いつもなら、一笑に付しておしまい。常識的に考えろ。迷信だ。子どもじゃないんだから。

 だけど。
 でも。
 今、この瞬間。

 私は願った。心から。

「家族ができますように。家族ができますように。家族ができますように」

 ――ずっと、一緒に。傍にいてくれる。そんな人が、現れますように。

「……っはは。柄じゃないや、こんなの」

 涙を拭って、私は部屋に戻る。
 季節は冬。都心とはいえ、やはり寒い。
 明日は仕事だ。もう寝ないと。

 戸を閉めた瞬間、奇妙な鳴き声を耳が拾った。

「……えっ?」

 何? 何かいる?

「家鳴り?にしてはもうちょっと生き物っぽいような……。やめやめ、寝よ。明日、いや、もう日付変わってるから今日か。今日早いんだから!」

 長めの独り言を呟いて、私は寝室へ向かった。