はじまりはベッドの上③


  

 とりあえず、現状把握のために話をしよう。そういうことになった。

 私は暖房をつけて、ダンデ(本物と確定)をソファに座らせて、ブランケットを押しつける。

 温かい飲み物を準備しようとお湯を沸かしていたら、ダンデのお腹の虫が鳴った。

 そうか。この人、丸1日、ひたすら何もせずに私を待っていたんだな……。

 お互い置かれた状況が状況なだけに、仕方ない部分もあったけれど、悪いことしちゃったな。

 冷蔵庫を確認する。玉子焼きくらいなら作れるかも。ご飯は炊飯器に残っているし、うん。即席でおにぎりくらいなら作れそうだ。具はどうしようかな。あ、おかかにしよう。カツオ節があったはず。

 20分もかからないでおにぎりと玉子焼きを作り、緑茶を淹れてダンデの所へ。

「ダンデ、さん。これ、良かったら食べてください」

 手遅れかもしれないが、一応「さん」付けで名前を呼んでみる。あと、敬語。多分年上だろうし。

 ダンデといえば、テーブルに置かれたおにぎりに釘付けで――あ、ちょっと戸惑っているっぽい。

「これは……?」
「おにぎりです。えーと、ご飯。簡単に食べられるやつ。お米を炊いて握って……、向こうの世界にもあるのかな。お腹、空いてるでしょ」

 ゴクリと彼の喉が鳴った。

「朝から何も食べてないですよね。遠慮しないでください」
「い、いただきます」

 恐る恐るといった様子で、ダンデはおにぎりを一口頬張った。口を動かすごとに表情が明るくなっていく。

「美味い!」

 口に合ったようで何よりだ。

 私は胸を撫で下ろした。

 ダンデが食べている間、私はこの世界のことを説明した。

 ここは日本という国で、ポケモンは存在しないということを。
 ポケモンはゲームになっていて、世界規模で人気があるということを。
 つい最近ポケモンの新作が発売されて、その物語はガラル地方であるということを。

「――そうだったのか」

 私の話を聞き終えたダンデは、神妙な顔で緑茶が入った湯飲みを持っていた。

「オレの住んでる世界は、キミにとってはゲームの世界なのか」
「そう、ですね」
「ちなみに、そのゲーム、キミは持っているのか?」
「持ってないです。ポケモン、もう10年くらいやってないから」
「なるほど」

 ダンデはじっと湯飲みを見つめていた。

「ゲームやってる人から大体は聞いてます。そのゲームには、あなたがポケモンチャンピオンとして登場するってこと。弟さんとその友人にポケモンと、ジムチャレンジの推薦状を渡したってこと。それは合ってますか」

 ダンデは首を縦に振った。

 曰く、ファイナルトーナメントの決勝戦直前で大きなトラブルがあり、その対応のためにバトルが中断になったらしい。世界を揺るがす一大事が起きたんだとか。

 私はしばらくポケモンやってなかったけど、多分、伝説のポケモンと主人公が出会うイベントがあったんだと予想する。ストーリーの山場に悪の組織と戦ったり世界救ったりするから、ポケモンって。

「ホップとマサルがムゲンダイナを捕獲したのを見届けて――多分オレは、気を失った。そして次に目を覚ましたら、ここにいた。あとは、今朝の通りだ」
「そうだったんですね。じゃあ、どうしてここに来たのかは、分からないですよね」
「そうだな。原因は分からない。だが、十中八九、ポケモンが絡んでいると予想しているぜ」
「ああ、まあ。そうですよね」

 ポケモンは不思議な力を持っている。

 伝説と呼ばれるポケモンは特にそうだ。私が知ってる範囲だとセレビィかな。時を渡るポケモン。過去に飛んだイベントがあったような気がする。

 今の彼は、宿なし文なし状態である。
 いるのは、相棒らしいリザードン1匹。
 頼れる人が誰もいない。

「一刻も早く帰らないと……。皆が心配しているに違いない」

 そうだよね。
 帰りたいよね。
 知らない世界にひとりきり。私が同じ立場だったら、泣いていたかもしれない。
 早く帰してあげないと。

 そのために、私ができることは……。

 うん、決まってるよね!

「ダンデさん、行く宛ないですよね」
「ああ」
「とりあえず、住みましょう」
「ん?」

 ダンデは瞬きを繰り返す。

「ここに。住みましょう」
「それは!……願ってもないことだが、良いのか?」
「しょうがないです。逆トリのセオリーですよ、これは」
「逆……?」
「あぁ、何でもない。こっちの話。今朝は出ていけって言ったけど、あなたの事情的に行く宛、ないですよね。だから、いいですよ。しばらくここに住んでください」
「ありがとう!」
「っ!? ちょ、」

 また手を握られてしまった。この人は感極まると握手する癖があるのだろうか?彼の両手で右手をがっつり握られて、上下に揺らされているんですが。

「サンキューだぜ! キミ、名前は?」
「あれ。名乗ってなかったですね。です。
くんか。よろしく頼む」

 笑顔が……! 笑顔が眩しい! 太陽直視したみたいで目が焼ける!顔が……、顔がいい……!

 やめてくれよ。生身の異性には耐性がないんだよ。

「早速だが、頼みたいことがある」

「うん。まず、手を離してくれないですかね」
「おっと、すまなかった」

 ダンデがハイパーボールを取り出す。

「リザードンに食事をさせたいんだが……。どこか彼を出せる、広い場所はないだろうか」

「あー……。リザードンねぇ?」

 うーん、早速問題発生ですねぇ。