タイトル


 金・銀のリメイク版をやったとき、私はチコリータを選んだ。それはもう、見た目が可愛かったので。くさタイプは弱点多いみたいだけど、そこは私の戦略次第だろと頑張って殿堂入りしたのはいい思い出だ。

「どの子も可愛い!」

 サルノリは人懐っこくて可愛いし、ヒバニーはやんちゃで可愛いし、メッソンは泣き虫で可愛いし……。結論、全員可愛い。

「大事な相棒だ。じっくり悩んで決めるといい」
「迷うなー」

 じっくり悩んで悩んで悩んで――私は、ヒバニーを選んだ。
 ウサギみたいで可愛いし、最初のジムはくさタイプだから相性的には有利だろうし……。

 何より、ダンデのリザードンと同じほのおタイプだし……。

「ヒバニーにしたのか。大切に育ててくれ」
「うん。ちなみにマサルは、何を選んでたの?」
「メッソンだったぜ! ホップがヒバニーで、オレがサルノリを預かって育てたんだ」
「へえー」

 そこから、初のバトル。ホップはウールーが手持ちにいるから2対1で不利に見えたけれど、なんとか勝利。レベルアップして覚えた新しい技はタイプ相性で効果抜群。――勝った!

「はー、久しぶりで緊張した」
「でも、タイプ相性は覚えているじゃないか。基本ができているのはいいことだぜ」
「うーん。ほのおはみずに弱くてみずはくさに弱くて、とかは覚えてるけど、あくタイプとかむしタイプとか、複雑で忘れてるんだよね」

 有利不利を覚えておけば、格段にバトルは強くなる、はず。

 いや、それにしても……。

「ダンデに見守られながらバトルするの、すっごく不思議な気持ち」
「そうか?」
「プロに見守られる素人の図だよ、これ」

 緊張するわ。横から「その技を忘れさせるのか? オレならこれにする」とか「オレならこのポケモンを手持ちに加える」とか口を挟まれそう。

「オレは、キミが誰を選んでどんな技でジムチャレンジに挑むのか、すごく楽しみだぜ。オレは様々なバトルから学ぶ。新人もベテランも関係ない!」

 ……そうだよね。ダンデはこういう人だ。

 ゲームの中のダンデだって、チャンピオンとして、または先輩のトレーナーとして、あるいは大人としてプレーヤーたちを見守ってくれている。

「失敗しても大丈夫。そこから学んでいけばいい! キミが思うままにやるんだ」
「失敗しても……。うん! 頑張る!」

 励まされてしまった……!
 そうだね、自分が思った通りに頑張ってみよう!
 失敗も恐れない!


***


 ストーリーを進めて分かったのだけど、ガラル地方は今までのジム巡りと全然違う。

 ある特定の人物から推薦状を貰ったトレーナーが「ジムチャレンジ」というものに挑戦し、期間中に8個のジムバッジを集めた人だけが、チャンピオンと戦えるチャンピオンカップに進めるらしい。

 つまり、ガラルには四天王がいないんだね。いるのはポケモンチャンピオンだけ。

「そうか、最後はダンデに挑むのか」

 超えるべき壁が最初から登場しているのね。今までのシリーズは、全部が全部そうではないらしいけど、旅の途中で助けてくれたトレーナーが実はチャンピオンでした……みたいなパターンだったから、こういうの新鮮。

「えー、ラスボスなの……」
「ラスボ……、そうなるのか」
「そうなれば……ますます頑張らないとね! ダンデの所に辿り着けるように」

 ダンデは「待ってるぜ」なんて笑う。バトルするのはこのゲームでだけど、彼に挑むのが楽しみだ!

 ちなみに、ダンデも別データでポケモンをプレイしようとしたのだけど、操作することができなかった。コントローラーのボタンを押しても、画面が動かないのだ。ポケモン以外のゲームは問題なくプレイできるから、やはりこれはダンデがポケモン世界からやって来たことに関係あるのかもしれない。

 ダンデはがっかりしていたけれど「キミがポケモンバトルの楽しさに目覚めるならいいんだ!」といつもの笑顔を浮かべていた。有望なトレーナーが誕生するかもしれない、だそうだ。

 本当、どこまでもポケモンが大好き人だな……。


***


さん、クリスマスはお暇?」

 会社でのことだ。隣の席に座る女性の先輩から声をかけられた。あ、というのは私の苗字です。

「あー、暇ですね。予定ないです」

 この時期はおばあちゃんのとこに帰ってたな。今年から、もう必要ないもんなあ。代わりにダンデがいるけどね。

 そうか、もうすぐクリスマスか……。確かに街はイルミネーションでキラキラ輝いているし、店内はクリスマスソング流れていたし、グッズもたくさん並べられていたっけ……?

さん、クリぼっち同士で集まってクリスマス会を開こうと思ってるんだけど、来ない?」
「女子だけですか?」
「そう。今のところ3人くるわ、私入れて。あ、さんも知ってる人たちだから。集まってご飯食べるくらいだけど、どう?」

 先輩も私も独身、彼氏なし。そうですね、クリスマスに予定入ってないのは寂しいですよね。

「あー、どうしようかな」
「……まさか、やっぱりさんには彼氏が?」
「やっぱりとは何ですか」
「ほら、他部署の子から『褐色肌のイケメン外国人と出掛けてたんですよ』って聞いたから」
「……あー」

 おのれ同僚。何故喋った。

「彼氏ではない?」
「ないです」
「でも、最近お弁当よく持ってくるじゃない? その人に作ってもらってるんでしょ」
「え? あ」

 私はランチボックスに目をやる。そう、ダンデは私のお弁当まで作ってくれるようになった。しかも、結構手の込んだやつ。冗談で「キャラ弁食べてみたーい」とか零したら「いいぜ!」とピカチュウのキャラ弁を作ってくれたんだよ。

 多分、ダンデって元々備わってるスペックが高いんだよね。今はポケモンバトルに持てる全てをぶつけているみたいだけど、もしかしたら違う分野でも大活躍できるくらいには能力高いんじゃないかな。

「彼にはたくさんお世話になっていますね……」
「じゃあ、やっぱり……」
「いや、まだ彼氏では」
「まだ?」
「忘れてください……まだでもないです。とはいえ、確かに彼がいるので今年はその集まりは遠慮しておきます。日本で初めてのクリスマスなので」

 クリスマスにひとりでお留守番は、ちょっと私の良心が咎めるので。

「それに、26日が祖母の四十九日でしたので、その準備もしないとですし」
「――分かった。じゃあ、また今度誘うわね。あれ、そういえば、今日の忘年会には参加する?」
「参加しますよ」

 私は先輩の方へ身体を近付け、小声で「だってほら、参加しろってうるさい人がいるでしょ」「そうね。部長ね」なんて会話をする。去年欠席したら、遠回しに嫌味を言われたのだ。参加自由じゃないんかい、みたいな。

 ダンデには忘年会のこと伝えているので、先に寝てていいよと言ってある。でも、ダンデのことだから起きてるんだろうなー。

 いい大人の見本とかチャンピオンだからとか、そういうの気にしなくていいよって再度念押ししたら「大丈夫。オレがキミのためにやりたいんだ」だって返事がきたものだから、もう何も言えなくなってしまった。ズルいよね、そういうの。

 チャンピオンはお休みしなよ、とは言ったものの今のところダンデに変化があるかといえば――あるな。うん、ある。ちょっとしたワガママを口にするようになったし、好き嫌いの主張もしっかりするようになった。いやー、あの野菜食べられないとは。意外に子ども舌だなー、と思ったのは内緒。

「今日はあんまり飲みすぎないようにね。その彼に怒られるわよ」
「あはは、気を付けます」

 でも飲み放題プランにしたらしいから、飲まないと勿体ないな。ダンデにも今朝「キミは酒に強いようだが気を付けろ」と送り出されたし、いつもよりはセーブだ、セーブ。

 と、決意したけれど……。

 まあ、これ。フラグですよね。