隠し事の1つや2つ③


 お酒、美味しい!!!!

さん、飛ばしてるね?」
「今飲まないでいつ飲むんですか! 飲みます! 今日はたくさん飲みます!」
「いいねー! 飲め飲めー!」
「このハイボール誰の?」
「はいはい! 私のー!」
「そのレゲェパンチはこっちでーす!」

 忘年会にこの居酒屋選んだの誰だろう。料理が美味しい。お肉美味しい。お酒美味しい。
 お酌しろ、なんていうメンドクサイ上司を、立ち回りが上手い先輩たちが引き受けてくれているから、とても助かっている。「若い子は気にせず楽しみなさい」と言われたので、お言葉に甘えている。本当にありがとうございます。

 私、羽目を外し過ぎないようにセーブ――できてるかなあ。いつもよりペース早いかも。気を付けないと。

 あ、このゴボウのカリカリ揚げ美味しい……。家で作れないかな。ダンデにリクエストしてみよ。そういえば、ゴボウを見たことがなかったのか「木の根っこじゃないか!?」って驚いてたっけ。食べさせたら不服な顔で「美味い」って呟いてたな。ふふ、可笑しいの。あの時の顔、写真撮りたいくらいだったよ。

「隣、いいすか」

 こっちの厚焼き玉子美味しいなー、ともぐもぐしていたころ、隣に誰かが座った。おー、知らない人だな。他部署かな。

 今回の忘年会は部署合同開催だから、知らない人多いんだよね……。やっぱり来年は参加やめようかな。

「いいですよー。って、もう座ってるじゃないですか」
「ははは、まあまあ。気にしないで」
「えーと、初めましてですよね。です」
「えっ、初めましてじゃないよ。俺ら同期じゃん。俺、商品開発部の柏木」
「カシワギさん」

 商品開発部の人か。その人が何で隣に来ているのだろう……。

「俺らタメだし、敬語とかいらないよ」
「そうなんだ。でも、やっぱりカシワギくんとは初めましてだよ」
「歓迎会でちょっと話したよ。覚えてない?」

 頭の中を探ってみたが、入社したときの歓迎会なんてあんまり覚えてない。

「あー? ごめん、お酒美味しいって感想しかない」
「マジか。あの時もさ、俺こうしてさんの隣に座って話したよ」

 そこまで言うなら話したんだろう。うーん、ちょっと待って……。あ?

「……もしかして、ゲームの話した?」
「そうそう」
「あー! ……ごめん、そうだ。覚えてる! 攻略詰んだからどうしたらいいかって」
「それだよ! さんの言う通りにしたら、その後サクサク進んでさー」

 あんまりゲームをやらない人だったらしく、初心者でもあまり躓かないところで躓いていた。クリアできたようで何よりです。

さんゲーム詳しいんだな」
「いやー、たまたまだよ」

 キャラの見た目どストライクで買ったやつであり、普段は乙女ゲームばかりしてる。ノベルゲーム中心だから、アクションとかあまりやらないんだよね。

 というか、カシワギくんは何で今更その話を持ち出してくるのだろう。

「お礼言いたかったんだけど、なかなかさんのいる部署に用事もなくてさ。行ってもさんは不在だったりするし。あんまりこういうのも顔出さないじゃん」
「あー。大人数の飲みはあんまり好きじゃなくて。今日は部長がうるさいから参加しただけ」
「あ、俺も騒がしいのは苦手」

 へー。意外。見た目、陽キャなのに。なんて失礼か。見た目で判断よくない。

「さっきからすごい飲むじゃん。お酒好き?」
「うん」

 ハイボールのグラス、もう少しで空になるなー。なんかまた飲もうかな。

「じゃあさ、今度俺と飲まない? お酒美味しい店知ってんだよ」
「料理も美味しくないと嫌」
「任せろ、そこも保証する」
「あ、じゃあ私も連れてってー!」

 カシワギくんとの会話に割り込んできたのはズシだ。私とカシワギくんの間に、文字通り割り込んで座りにきた。
 ぐえ、無理に入るなよー。隣の人にぶつかるじゃん。

「うわ、ズシだ。ズシテ」
「あんたフルネーまで喋ったら明日の朝日を拝めないと思いなさいね」
「こええよ!!」

 呪い殺しそうで怖いよ、ズシ。  実はズシの下の名前ってキラキラネームなんだよね。ご覧の通りすごく嫌がるので、気安く呼んではいけないのだ。

「ったくもう! 可愛い可愛いに手を出そうとしてるのはお前かー!」

 無理矢理座ってきたズシは、私をカシワギくんから守るように抱き込んでくる。うーん。この顔の赤い感じ。酔ってるなあ。

「ズシには関係ないだろ」
「あるわ。変な虫つかないように見張ってるんだから」
「俺は変な虫じゃない」
「ズシ、カシワギくんと仲良いの?」

 ズシはうなずいた。

「私も商品開発部だから。こいつとは毎日顔合わせてるの。ライバルよライバル」
「なるほどー」
「私には言い合いで勝ったことないもんねー?」
「うるせぇ……」

 カシワギくんが苦虫を噛み潰したよう顔をしている。図星のようだ。

にはダンデ似のカッコいい彼氏がいるから、カシワギはお呼びでないのよ。散れ」
「えっ、彼氏いるの!?」
「えっ、彼氏じゃないよ!?」

 ダンデは彼氏じゃないよ!

「てかダンデ似ってなんだよ。芸能人?」
「チャンピオンですー!」
「はぁ……?」

 カシワギくんが戸惑っている。それもそうだよ。いきなり何のことってなるじゃん。

 というかさ、散々ズシに説明したよね?

 ダンデに似た人は留学生で、ポケモン大好きで、お金盗まれて困っていたから助けてあげて縁ができた……、そんな説明(設定)したよね? お隣に住んでいるから、何かと接点があるっていう説明(嘘)したよね?

「違うから、あの人は」
さんこう言ってるだろ」
「バカね、。こういうときは嘘でもうなずいておきなさいよ。カシワギはダメ。こいつ気が弱いから」
「気が弱かったら声掛けちゃダメなのかよ……」

 カシワギくんが不貞腐れている。手元のお酒を一気に煽ると、ガンッと勢いよくテーブルに置いた。

「下心ありきでさんに声かけたのは認めるよ。……前から可愛いなと思ってたし」
「えぇーと……」

 私は戸惑ってしまった。

 可愛い、だと? そんな単語久々に三次元で聞いた。
 私のことなの? 嘘でしょ? えっ、本当に?

「もしフリーなら俺とご飯行くのどうすか……」

 こういうとき、どう返したら正解なんだろうか。
 ゲームだったら、好感度が見えたりするのに。選択肢が出たりするのに。難しいよ。

「えぇと……」
「断れ」
「ズシは黙っとけ、俺はさんと話してんの」

 この人が私の彼氏になるとして。
 私、付き合うなら結婚前提がいい。だって、私、もう頼りになる家族がいない。家族が欲しい。
 隣にいるのがカシワギくんか――。






 ――ダンデじゃ、ないのか。





「――っ!?」

 すみません今のナシで! ナシでお願いします!! ダンデを思い浮かべるな!

 私は慌てて残りのハイボールを一気飲みした!

!? どうしたの急に!?」
「……っ、あ、いやちょっと喉が渇いてね!」

 ダンデは違うよ。あの人は家族とかそういうのに入れちゃダメ。世界が違う人だぞ、文字通り。身近な異性がダンデだから、そういう発想になるんだ、きっと。

 こんな機会、滅多にない。断る理由もないし、カシワギくんと仲良くなるのもありでは?

「カシワギくん! とりあえず連絡先交換しよ!」
「おっ……! マジで!? いいの?」
やめときなよ。そのダンデ似のイケメンにしなよー」

 止めようとするズシには悪いけど、

「まあ、あの。いいでしょ……」
「えー。に先に彼氏できるのかあ」

 彼氏候補くらい、いてもいいじゃん……。

 その後、カシワギくんは商品開発部の先輩にどこかに連れ去られていった。荷馬車に乗せらた子牛の歌を思い出すなあ。

 それにしても……カシワギくんかあ……。うーん、まあ……アリなのかな?

 なんて思いながら、私はズシとオタクトークに花を咲かせ、どんどんアルコールを摂取したのだった。