
その頃のガラルでは
「チャンピオンが行方不明!?」
「捜して! 地下プラントをくまなく!」
「屋上はどうですか? 瓦礫を片付けながら捜してください!」
慌ただしく人が行き交うナックルジム。
オレはマサルと身を寄せあって、これからのことを考えていた。
数時間前。ローズ委員長が起こしたブラックナイトは収束を迎えた。マサルがブラックナイトの原因、ムゲンダイナを捕まえたんだ! さすがオレのライバルだぞ!
そしてオレは、駆けつけた警察の人やポケモンリーグ関係の大人に、屋上で起きた一部始終を話してみせた。
初めは「ムゲンダイナ!」「ザシアンとザマゼンタが!」「オレのバイウールーとマサルのインテレオンが!」と夢中になって熱く語っていたけれど、大人たちの表情は暗いまま。
どうしたのか訊いてみたら、重苦しい口調で、衝撃の事実を突きつけられた。
――落ち着いて聞いてほしい。あなたのお兄さんが……、ダンデさんが、どこにもいない。
――いつからいなくなったか、君たち、心当たりはあるか?
その瞬間、オレは目の前が真っ暗になった。
アニキが、いない……?
いつからなんだ? いつからいなくなっちゃったんだ!?
アニキは……、アニキはムゲンダイナを捕まえようとしたけど、失敗した。そういえばアニキは、ボールから出たムゲンダイナの衝撃を直接食らったんだ。アニキのリザードンが、オレとマサルを庇ってくれたから。だから、アニキは……。
オレが、オレのせいで――。
「ホップ……」
ずっとだんまりだったマサルが口を開いた。マサルは口数が少ないけれど、その分物の本質を掴むのが上手い。観察力や洞察力にも長けている。だからきっと、ポケモン勝負も強いんだろうな。
「ホップ、ダンデさんがいなくなったのは自分のせいだとか思ってない?」
「! すごいぞ、お見通しなんだな……」
「ホップ、顔に出やすいもん。だから、分かるよ」
マサルは少し困ったように笑った。
「あのとき僕らはさ、ムゲンダイナを鎮めようと必死だった。ダンデさんができなかったことを僕らとポケモンたちでやってみせたんだよ。ムゲンダイナ以外に目が向かなくても仕方なかった。そう思う」
「……」
「それに、ダンデさんがいなくなったのは――強いて言えば、ムゲンダイナのせいかも」
「え?」
「ホップ、覚えてる? ムゲンダイナと戦ったとき、空に色んな場所が映っていたのを」
「――」
そういえば……。
「ジムチャレンジで行った場所が映ってたんだぞ! バウタウンの灯台。ブラッシータウンの博士の家! それから、それから――!」
「僕も同じのを見たよ。……中には知らない場所もあった。もしかしたらあのとき、あの場所は色んな空間に繋がっていたのかも」
「なるほど! ……ってことはどういうことなんだ?」
「えーと、つまりね」
マサルがモンスターボールを取り出した。
「マサル、それって」
「うん。ムゲンダイナだよ――ったた」
マサルが急に頭を押さえるもんだからオレは慌てた。知らないうちにどこかぶつけていたのか!?
「大丈夫か!? どこか怪我したのか!?」
マサルは顰めっ面をしながらも首を横に振った。
「――ううん。平気。急に頭痛がしたけど、問題ないよ」
「本当か? スタッフの人呼んでくるんだぞ!」
「待って! わ、……僕の仮説、聞いてからにして」
服の裾を引っ張られたので、渋々その場に留まる。
静かな口調なのに、有無を言わせない迫力があった。
「わ、分かったんだぞ。それで、仮説って……?」
「あのね、ホップ。もしかしたら、ダンデさんは……。今、ナックルにいないのかも」
マサルの仮説はこうだ。
アニキは、あの空間の歪みに巻き込まれて、どこか遠い場所にワープしたんじゃないか。だからナックルシティにはいないんじゃないか、と。
「あの歪みは、多分ムゲンダイナが生み出したんだと思う。“ねがいぼし”はムゲンダイナの一部なんだよね? 色んな力を秘めた“ねがいぼし”の元がムゲンダイナなら、人がワープするのも不思議じゃないかも」
「じゃ、じゃあ! ガラル中を探したらアニキ見つかるかもしれないんだな!?」
「あくまで僕の仮説だよ! でも、可能性はゼロじゃない! 僕、ちょっとこの話を誰かに伝えてくる! それから、ムゲンダイナを博士に見てもらおう。ヒントがあるかもしれないだろ!」
マサル……!
「――マサルは本当にすごいんだぞ!」
マサルの言葉は、まるで強い光だ。
“ねがいぼし”みたいに、オレの心に明かりを――希望を灯してくれる。
アニキがいない。それなら、捜せばいい。
オレにはポケモンがいる。ライバルがいる。皆がいる。
アニキの力になりたい。できることがあるはず。そうやって、オレはアニキを追いかけてきたんだ。
そうしたら本当に、できたんだ! やれたんだ!
「やろうよ、ホップ」
「ああ、マサル!」
ここでじっとしていられない。
アニキを捜そう。
「アニキは方向オンチだからな! きっと今頃、迷子になってるんだぞ!」
アニキ、すぐにオレたちが迎えに行くから。待っててくれよな!