そうだ、おもしれー女になろう!①
あ。私、転生したんだわ。
前世を思い出したのはイチョウ商会に就職した日だった。
新入りの私は商会の皆さんに挨拶をしていたのだが、
「ウォロと言います。後輩さん、よろしくお願いします」
微笑む金髪の男を見た瞬間、唐突に前世の記憶と知識が頭に流れ込んできたのだ。
テレビの前、ゲーム機を手にした女が「ウォロふざけんな!」と叫ぶ姿が見える。
だから、こう思ったのも仕方ない。
――で、出た〜〜! アルセウスに会いたいがために色々やらかした奴〜! ギラティナと手を組んで時空の裂け目作った張本人〜! 主人公がヒスイに降り立った原因〜! 新たな世界に作り替えるとか宣った古代シンオウ人の末裔〜!!
「よ、よろしくお願いします、ウォロ先パイ」
頭の中は騒がしかったが、なんとか笑顔を取り繕った。上手く笑えていただろうか。
あー、何で私、よりによってヒスイ地方に転生したんだろう?
アルセウスの仕業なんだろうか。もしそうなら、ゲームの主人公にしたように、私に話しかけてくれたっていいのよ……?
***
私の前世は平々凡々の女だった……、はずだ。ポケモンのゲームをプレイして、カッコいいポケモンやらジムリーダーやらチャンピオンやらに熱を上げて「あー、ポケモンの世界に転生してみたい。ポケモンと暮らしたい。ジムリーダーとお近づきになりたい」と騒いでいた。
そう、漫画もアニメもゲームも大好きな、推し活に精を出していた立派なオタク女だったはずだ。
どうやら私が転生したのは『Pokémon LEGENDS アルセウス』の世界のようだ。シンオウ地方がまだヒスイ地方と呼ばれており、人とポケモンが親密になって暮らすことが珍しい時代である。
ポケモンは恐ろしい生き物。そう主張する人も少なくない。
実は私も「ポケモンは怖い」派だったのだが、前世を思い出した今、ちっともそんなこと思わない。むしろポケモンと仲良く暮らしたい! ポケモン欲しい!
商会の中でポケモンを持っている人たちに「ポケモンと暮らすってどんな感じですか」「どうやって最初の1匹をゲットしたんですか」と色々聞き回っていたら、なんとウォロからトゲピーを貰ってしまったのだ! お前の相棒とお揃いじゃねえか!!
ウォロには色々思うところがあるが嬉しいものは嬉しいので、私は素直にトゲピーを受け取った。
この世界に生まれて初めて手にしたポケモンだ。
大事に育てて立派なトゲキッスにしてやるからな、トゲピー。
「ウォロ先パイありがとうございます! じゃあ、今日からお前はうちの子だね。ニックネームは――ええと、どうすっかな……」
「ニック――あだ名をつけるんですか?」
ウォロから心底不思議がられた。ん? まだこの時代、ニックネームをつける文化は浸透していないのか?
「変ですか? だって、トゲピーってそういうポケモンの名前でしょう? ウォロさんや私を『人間』と呼ぶようなものでしょう? せっかく私のトゲピーになったんですから、他のトゲピーと区別するためにニックネームつけるんです」
「……ナルホド。アナタ、面白いですね」
「そ、そうっすか……?」
面白いと言われてしまった。それは主人公のために取っておいてやれよ。言うじゃん、序盤で。初対面で。
あれ、ちょっと待て。今って、ゲームストーリーのどの時間軸なんだろう?
もしかして、主人公がまだ来る前? だって、まだヒスイの空に時空の裂け目はできてない。
――ということは、だ。
もしかして、主人公がこの時代にこなくて済むかもしれない?