そうだ、おもしれー女になろう!②
そもそもの話。原作の一連の事件は、ウォロの好奇心が暴走して引き起こされたものだ。
アルセウスに会いたい。アルセウスを従えたい。
今ある世界をなくして改めて世界を創造したい。
どうなるのか試したい。
どこまでもどこまでも、自分の欲望に忠実な男である。
しかもアルセウスの狂信者ときた。アルセウスの加護があるゲームの主人公に嫉妬するし、アルセウスと会える権利を得た主人公に「見たくないのですよ。アナタとアルセウスの邂逅など」とか言い放つ。
いや、主人公はアルセウスに呼ばれて世界を守るためにひたすら知らない土地で頑張ったんですが?
キングとかクイーンとか呼ばれるポケモン、身体張って鎮めたんですが?
あんなに頑張ったのに村を追放されたんですが?
時空の裂け目が閉じちゃって自動的にヒスイに残ることになったんですが?
信頼していた人ウォロに裏切られた上にバトル勝ったら二度と会えなくなったんですが?
主人公くん(ちゃん)の気持ちを考えてよ!? これだけ頑張ってる子いないよ!?
――とにかく、だ。ウォロがギラティナと組んで時空の裂け目を開けなければ、ポケモンに異変は起きない。主人公はヒスイにやってこない。
ウォロの計画を阻止すれば、原作の事件は起きないのでは……?
主人公を守れるのでは……?
まあ、そう簡単にできるとは思ってないけど、やってみる価値はある。
方法? 今考え中です。
だって、主人公たちが可哀想だ。まだ15歳だぞ。ヒスイでは大人かもしれないけど令和だとまだ子どもなんだからな?
私は主人公たち大好きですので!! 必要ならモンペにでもなってやるわ!!
……ちょっとヒートアップした。落ち着く。前世の記憶が蘇ったせいなのか、前世の性格? 意識っていうの? そういうのが強く出てる感じがする。今世の私が4割。前世の私6割って感じ。日に日にこの境目が消えていくので、もう少し時が経てばいい感じに混ざり合って、「ハイブリッド私」になるんだと思う。何言ってんだ、だって? ごめん、ちょっとこの感覚を言語化できるほど頭の作りがよくないんだ……。転生したのにな。もうちょい賢く生まれたかった……。
あ、脱線してしまった。話を戻そう。
多分恐らく、今はまだゲーム本編が始まる前なんだと思う。空に異変が起こってないから。
……いやごめんやっぱなし。分かんない。もしかしたら、もうすでにウォロはギラティナと手を組んで時空の裂け目を発生させようとしているのかもしれない。明日にでも本編が始まってしまうのかもしれない。
「やあやあ先パイ、ギラティナとの計画は順調?」とか訊くわけにもいかない。ウォロのあとをつけて確認してやろうと思ったが、残念ながら私はイチョウ商会の新人。好き勝手に行動ができない。ギンナンさんに同行して仕事を覚えているところなのだ。
今日はコトブキムラに来ている。残念なことに、ここの住人は「ポケモンは怖い」派が多い。ボールから出しているうちのトゲまる(ウォロから貰ったトゲピーのニックネーム)を見て警戒を露わにするため、すぐにボールに戻した。商売の妨げになってるので。
「あのー、ギンナンさん。ウォロ先パイって普段何してるか知ってます? あの人ふらっと消えていなくなるから話しかけるタイミングがなくて」
「……さあ?」
「さあって……」
ギンナンさん。商会のリーダー。未来のヒスイ――シンオウ地方のでんきタイプジムリーダーに似ている。街を停電させたあの人だよ。
多分、ギンナンさんはその人のご先祖なんだろう。ギンナンさんはカラクリが好きで、たまに奇妙なカラクリ箱(前世の知識でいうと家電製品に似てる)を見つけてきては目を輝かせている。普段はローテンションなのに、その手の話になると水を得たコイキングのように生き生きとして饒舌になる。今はローテンションのギンナンさんだ。
「ウォロには別行動を許してるよ。人当たりがよくて愛想もいいから常連さんからの覚えもいいし、ご新規さんを獲得してくる。何より商会への貢献度が大きい。誰も文句は言えないよ」
「へえ……。ウォロ先パイ、確かにいつも笑顔で話しかけやすそうっすよね」
とはいえ、その本性はアルセウス狂信者かつ同担拒否マンだぞ。
あと時々あの人、サボって遺跡とか神話とか調べてるよ。ついでに言うと興味本位で世界を無にするレベルのやらかしを目論んでるよ。
そう密告やりたいが、入ってきたばかりの新人が何を言ったって誰も信じてくれないだろう。ウォロは商会内外でも評判がいいし、むしろ私の方が信用ガタ落ちになると思う。
それに、どういうわけか原作に関わることを話そうとするとポケモンの鳴き声に変換されてしまう。この間出たのは「ぽわーぐちょぐちょ」。トリトドンじゃねえか! 放送禁止用語に被せる効果音みたいにするな! せめてそこはうちの相棒トゲまるの「チョッゲップリィィィィィ」とかそういう……、これアニメの鳴き声だっけか……? いやともかく! これ絶対アルセウスのせいだろ! ネタバレ厳禁ってか!? 原作に関わるあれそれは話すなってか!?
あー、もう! 一体どうしたもんか……。このままだと原作始まっちゃうんだよな。どうやって阻止したらいいんだ? 私にできることはあるのか?
「あーウォロ先パイウォロ先パイウォロ先パイ……」
こう、せめてこう、さ。アルセウスへの興味が薄れたらいいんだけどな? まあ、そんな簡単にはいかないよなー。
「せめてウォロ先パイと組ませてもらえたらな……」
「ジブンが何か?」
「――先パイ!!」
いつの間に戻ってきたんだろう。音もなく背後に現れるのちょっとビビった。
でも、いいタイミングで会えた!
「先パイ! 色々訊きたいことがありまして!」
「仕事ならギンナンさんが――」
「いや、仕事じゃなくてー。えーとえーと、」
えーと、何だ、急に会えたからなんて理由つけようかな。
こう、2人で。サシで話したいんだよ。
何て言えばいいんだ。
密会じゃなくて、ええとええと、
……あ、あれだ。
「先パイ、デートしましょう!?」
「えっ」
ウォロの目が見開かれる。
oh…………単語、間違えた。