こんな気持ちになるのはあの子だけだなあ、と思いました。

「……」

 誠凛高校1年、黒子テツヤ。彼には最近よく話をする女子の友達が出来た。

 確かに友達だが、普通の友達と言うのも何か違うような気がした。本がきっかけで知り合いになったのだ、「本仲間」というものがしっくりくる。ということで、勝手ながら、黒子はのことを「本仲間で女友達」と認識していた。




 ――はずだったのだが、







「黒子は最近、練習終わるとよく考え事するようになったな」

 きつかった練習も終わり、部室で着替えながら主将の日向がポツリと呟いた。

「試合直ぐなんだぞ、そんなんで大丈夫か?」

 インターハイ予選決勝リーグ。次の試合の相手は桐皇なのだ。この間は、その高校のマネージャーが来て、黒子のカノジョだと言ったり、火神が青峰に出会ったり……色々なことがあった。更に黒子は桐皇のマネージャー、桃井に「青峰に勝つ」と約束したのだ。迂闊に気を抜けない。

「桐皇戦のことか?」

 黒子の口数が少ないのは今に始まったことじゃないが、今日は今まで以上に「無口」だった。

「違います。他のことで、少し」
「他のこと?」

 日向が首を傾げる。

「何だよ、それ」
「分かった! 黒子のカノジョ!」
「コガ、それ桃井さんか?」
「違うって。えーと。さん」

 小金井の言葉にピクリ、と反応する黒子。それに気付いたのは日向と伊月、水戸部だけだった。小金井は気付かず、「文学少女って感じで可愛いよね」と呑気に続けた。

 の登場で度々カントクに練習量を増やされる彼らだが、彼女は可愛い。例えば雰囲気。女の子らしいが決して派手ではない。素朴で可愛い。胸もあるし……、と実はそこを重要視しているのは否めない。だからそれをカントクが敏感に感じ取って練習が増えるのだが。

さんは本仲間ですよ」
「でもこの間、一緒に帰ったんじゃないの?」
「そうですね。でも、彼女は本仲間です」
「いやだけ」
「本仲間です」

 有無を言わせない迫力に小金井が黙る。「あれ、オレなんか地雷踏んだか」と悲しそうに水戸部に助けを求めた。それを気の毒に思いつつ、日向が黒子に訊ねる。

「この間、さん元気なさそうだったよな? 何か訊いたのか?」
「訊いたんですけど……、教えてもらえなくて。大丈夫だよ、とか本当だよ、を連発していたので恐らく大丈夫じゃないですね」
「そうか……」

 仲良くしてる奴がいつもと違っていたら心配にもなるわな、と日向は納得する。自分にもそういう経験がある。嫌いだって言いつつも、恩人で変人の――、

 主将として悩める後輩に何か言ってやろうと考え、口を開きかけて、

「あれ、いねえ!?」
「黒子なら火神とさっき帰ってったけど? 声かけていっただろ。日向聞こえなかったのか?」
「……伊月……明日1年だけ練習倍にしてもいいよな。オレの気遣いを返せこの野郎」
「おい、クラッチタイム入りかけてないか!?」


***


「火神君、少し聞いてくれますか?」
「あん?」

 下校中の火神と黒子。いつもはあまり喋らない黒子が、今日は珍しく自分から話し掛けてきた。

「いつも聞いてるじゃねーかよ」
「そうですね。すみません、変な言い方でした」
「で、何だよ」
「この間、黄瀬君と会ったんです」
「! またか」

 練習試合以来にその名前を聞いたのではないだろうか。初めて戦ったキセキの世代の1人。

「何か言われたのか?」

 逸る火神に、黒子は首を横に振る。

「そうじゃないんです。バスケやキセキの世代は関係ないんです」
「じゃあ、どういうことだ」
さんと黄瀬君と、この間の土曜日に、偶然本屋の前で会いました。僕が見かけた時、さんはスカートに小学生の女の子にアイスを付けられて困っていました」
「ああ」

 は本仲間のあいつか、と火神は頭に顔を思い浮かべる。確かに本屋や図書館が似合いそうな雰囲気の女子だ。

 しかし、そのと黒子と黄瀬に、一体何の関係があるのだろう?

「僕はさんにタオルを貸してあげました。その時、本屋から出てきた黄瀬君と会ったんです。彼女は黄瀬君と少しは面識があったのか、そんなに驚いてなかったんですけど。僕と黄瀬君が彼女のスカートの汚れを取ろうと――」
「ああ! 長え! もっと短くして言えよ。つまり何だ。要点まとめろ」

 核心に近付く気配がないので、火神がとうとう痺れを切らせた。

「すみません。黄瀬君が彼女と親しくしてるのを見て――嫌だなあって思ったんです」
「は?」
「もしかしたら、それが火神君でも嫌だと思ったかもしれません」

 黒子の足が止まる。火神もそれに気付いて歩くのを止める。

 黒子の表情は拗ねた子どものようだった。

「最近おかしいんです。さんといると試合に出た時みたいにワクワクして、楽しくて、しょうがないんです」

 本の話題が楽しいから? そんなの、違うような気がした。

 黄瀬に手を掴まれたを思わず捕まえてしまったあの時。黄瀬に、に触らないでくれと言いそうになった。

「心臓も痛いし、さんを前にすると手が震えるし。火神君はこの正体、分かりますか?」
「……」

 ポリ、と思わず頬を掻く。顔を顰める。いきなりンなこと言われたって……と考えあぐねる。正体も何も……、火神がない知恵を絞ってようやく導き出したのは、

「病気か? 病気じゃねえ?」
「病気ですかね?」
「ああうん。病気だ。それでいいだろ、それだ。この話終わり」
「火神君適当過ぎます」
「ンなもん言われたって経験ねーし」

「ああいうことになるのは、さんだけなんです」
「試合近けーんだから、変なら病院行けよ。それかカントクに相談するとか」
「ああ、なるほど」

 そしてこれで解決したと言わんばかりに2人は再び歩き始める。途中でいつものマジバに寄って行こうか、そんな話をしながら。









「バカね! 黒子君、そんなの病院に行く必要ないわ!」

 次の日。黒子はカントクにハリセンで頭を強くはたかれ、困惑した。
 そして、彼女の言葉に大いに驚くことになる。















「それは恋よ恋! 恋の病なんて医者に治せるわけないでしょ!」