とある男審神者の独白①『文系打刀と理系審神者』の番外編。前半まったく刀剣男士が出てこないぞ…!!冷徹視点で描く、冷徹と夢主の学生時代の話です。名前変換機能がないので、冷徹も夢主も名前固定です。ご了承下さい。最早夢小説とは言い難い代物です。冷徹のバックグラウンドを書いているだけのものなので、興味のない方はそっとブラウザバックしてください。追記から読めます#男審神者の独白追記 どうして自分は、いじめられているのだろう。殴られ蹴られ金を巻き上げられ……。いじめられるために登校しているわけではないのに。 まあ、答えは簡単だ。自分が豚のように太っていて、鈍くて、気弱だからだ。 冷たい地面の感触が酷く不快だ。痛む身体に鞭を打ち、律は立ち上がった。校舎裏で暴力行為なんて、なんてベタなのだろう? 三ヶ月経って徐々に馴染んできた学生服の汚れを払い、大きな溜め息をつく。(クソっ。あいつらめ、集団で寄ってきやがって) 心の中ではいくらでも罵詈雑言を吐けるのに、いざ、いじめっ子を前にすると言葉は喉に詰まって、蚊の鳴くような声で「やめろよ」としか言えない。ああなんとも腹ただしい。 鉄錆に似たような味が口の中に広がっていた。唾と共に吐き出せば、赤いそれが地面に落ちる。殴られて出た血ではない。悔しさから唇を噛んでいたせいである。「もう嫌だ……」 いじめられっ子の呟きを聞いた者はいない。*** 中学1年生の秋。千畳敷律せんじょうしきりつは、約13年の人生をふり返って絶望していた。 家庭環境は、まあ悪くない。父も母も仲が良い。俗に言う“成金”だが金には困っておらず、律が欲しいものは何でも買ってくれた。世間一般では裕福な家庭に入るだろう。 問題は学校である。 彼は小学校高学年になってから、ほぼ毎日いじめられていた。彼はクラスメイトと違うところが多すぎたのだ。 まず、服装。律の服は母の友人が立ち上げたブランドものだった。生地から作りまでこだわりにこだわり抜いた一品であり、素人が見ても高級品だと理解する出来であった。肌着から靴下までそのブランドで統一されていれば、誰の目にだって留まるだろう。 次に、体型。彼の身体はとても大きかった。肥満だったのだ。母親の家系は肥満者が多く、律にもしっかり現れていたのである。 彼の生きる時代では科学は飛躍的な進歩を遂げた。栄養管理といったものはAIが行い、運動不足になってきた人類の健康に貢献している。……のだが、律の体型は肥満のままであった。AIのアドバイスを無視し、食欲の赴くままに食べていたせいだろう。両親もそれを咎めはしたかった。 だから律の体型は、標準体重のクラスメイトに比べたらとてつもなく目立つのだ。いつしか彼らは律を「デブ」と蔑称した。 そして最後は、律の性格にあった。彼は金持ち特有の――、なんとも鼻持ちならない奴だった。律は自分がクラスの中心になれないことに気付いていた。誰かの気を引きたくて、スゲー奴だと思われたくて、発売されて間もないゲームソフトを手に入れてクラスメイトに自慢したり、入手困難と言われる男児向けのおもちゃを見せびらかしたりして、注目を浴びていたのだった。 注目を浴びるのは悪い気がしなかった。羨ましがられるのは気持ちが良かった。だが、「まあ金もない君たちのご家庭じゃあ無理だよ」「コネがあるんだ。羨ましいだろう」なんて威張っていたのがいけなかった。律が小学五年生になる頃には、このやり方で注目を浴びるとは出来なくなった。クラスメイトのほとんどが、律を“嫌な奴”だと認識していた。 金持ちのボンボンで、嫌な奴で、デブ。 運動はてんでダメ。勉強は出来るが、出来ない人をバカにする。 そのうち律は男子からはいじめられ、女子から無視されるようになっていった。 中学生になったらその状況も変わるだろう。律は楽観視していたが、その淡い希望は入学式で簡単に打ち砕かれた。 小学校のクラスメイトたちが律と同じ中学へ進学し、彼がどんなに“嫌な奴”なのか、新しい友人たちに吹聴したのである。お陰で律は小学校時代と同じようにクラスメイトから避けられるようになってしまった。 おまけに初対面の先輩から呼び出しを喰らい、「金持ちなんだろ。俺らに恵んでくれよ」と金を巻き上げられるようになった。暴力もしょっちゅうだった。小学生の時は池に突き落とされるのが関の山だったが、中学生となると“プロレスごっこ”とは名ばかりの暴力行為が律に襲いかかった。(何なんだよ。僕は何も、していないのに) 下校を促すチャイムが鳴った。今までのことを思い出しながら、亀のような歩みで律は教室へ向かう。 そう、何もしていない。中学では何もしていない。(あれから僕も気を付けたさ。出る杭は打たれる。自慢ばかりじゃ嫌われる。だから中学では同じ間違いをしないようにと……。なのに、何でだよ。悪い奴は、ムカつく奴は、生まれてから死ぬまでずっと、そのままの性格だとでも言うのかよ) 律だって成長したのだ。中学では独りになるのは嫌だった。友人が欲しかった。(なのに、あんまりだ) 両親に泣きつくことも考えたが、律はそうしなかった。小学生の時、一度だけ両親にいじめを訴えたことがあった。しかしそれは、更なるいじめを助長しただけだ。担任教師からの注意があっても、3日経てば再びいじめが始まったのだった。 きっと今回も同じ結果になるだけだ。そう思って、律は両親にいじめを悟られないよう、細心の注意を払っている。制服は密かに三着用意し、汚れてもいいように着回した。洗濯で落ちない汚れはクリーニングに出している。両親から貰う小遣いは、学生のそれを超えているのだ。 今日もクリーニングに出す汚れだな、と律は鉛のように重い足を動かして、教室に入った。まずは着替えなければ。「千畳敷くん?」 まるでロボットのように無機質な呼びかけだった。健康管理AIの呼びかけにも似ていたが、いや、そもそもあのAIは律を「律様」と呼ぶように設定している。(まるで友人に呼ばれたみたいだ)「千畳敷くん。聞こえていますか」 いや、みたい、ではなかった。 窓際の席の方、仮想ディスプレイを立ち上げ、律をじっと見つめる女子生徒がいる。「あ……、僕?」 たっぷり一分かけて返事をしたのは仕方がない。まさか、クラスメイトから話しかけられるとは思わなかったのだから。「ここ、3組だよね?」 少女は訝しげにうなずいた。「……? ええ、ここは1年3組の教室ですよ、千畳敷くん。私はあなたのクラスメイトであり、あなたと同じクラス委員長です。今日の放課後はやることがあるので残るようにと言われましたが……。覚えてないんですか」畳む 文系理系小ネタ 2024/03/15(Fri)
『文系打刀と理系審神者』の番外編。前半まったく刀剣男士が出てこないぞ…!!
冷徹視点で描く、冷徹と夢主の学生時代の話です。名前変換機能がないので、冷徹も夢主も名前固定です。ご了承下さい。
最早夢小説とは言い難い代物です。冷徹のバックグラウンドを書いているだけのものなので、興味のない方はそっとブラウザバックしてください。追記から読めます
#男審神者の独白
どうして自分は、いじめられているのだろう。殴られ蹴られ金を巻き上げられ……。いじめられるために登校しているわけではないのに。
まあ、答えは簡単だ。自分が豚のように太っていて、鈍くて、気弱だからだ。
冷たい地面の感触が酷く不快だ。痛む身体に鞭を打ち、律は立ち上がった。校舎裏で暴力行為なんて、なんてベタなのだろう? 三ヶ月経って徐々に馴染んできた学生服の汚れを払い、大きな溜め息をつく。
(クソっ。あいつらめ、集団で寄ってきやがって)
心の中ではいくらでも罵詈雑言を吐けるのに、いざ、いじめっ子を前にすると言葉は喉に詰まって、蚊の鳴くような声で「やめろよ」としか言えない。ああなんとも腹ただしい。
鉄錆に似たような味が口の中に広がっていた。唾と共に吐き出せば、赤いそれが地面に落ちる。殴られて出た血ではない。悔しさから唇を噛んでいたせいである。
「もう嫌だ……」
いじめられっ子の呟きを聞いた者はいない。
***
中学1年生の秋。千畳敷律せんじょうしきりつは、約13年の人生をふり返って絶望していた。
家庭環境は、まあ悪くない。父も母も仲が良い。俗に言う“成金”だが金には困っておらず、律が欲しいものは何でも買ってくれた。世間一般では裕福な家庭に入るだろう。
問題は学校である。
彼は小学校高学年になってから、ほぼ毎日いじめられていた。彼はクラスメイトと違うところが多すぎたのだ。
まず、服装。律の服は母の友人が立ち上げたブランドものだった。生地から作りまでこだわりにこだわり抜いた一品であり、素人が見ても高級品だと理解する出来であった。肌着から靴下までそのブランドで統一されていれば、誰の目にだって留まるだろう。
次に、体型。彼の身体はとても大きかった。肥満だったのだ。母親の家系は肥満者が多く、律にもしっかり現れていたのである。
彼の生きる時代では科学は飛躍的な進歩を遂げた。栄養管理といったものはAIが行い、運動不足になってきた人類の健康に貢献している。……のだが、律の体型は肥満のままであった。AIのアドバイスを無視し、食欲の赴くままに食べていたせいだろう。両親もそれを咎めはしたかった。
だから律の体型は、標準体重のクラスメイトに比べたらとてつもなく目立つのだ。いつしか彼らは律を「デブ」と蔑称した。
そして最後は、律の性格にあった。彼は金持ち特有の――、なんとも鼻持ちならない奴だった。
律は自分がクラスの中心になれないことに気付いていた。誰かの気を引きたくて、スゲー奴だと思われたくて、発売されて間もないゲームソフトを手に入れてクラスメイトに自慢したり、入手困難と言われる男児向けのおもちゃを見せびらかしたりして、注目を浴びていたのだった。
注目を浴びるのは悪い気がしなかった。羨ましがられるのは気持ちが良かった。だが、「まあ金もない君たちのご家庭じゃあ無理だよ」「コネがあるんだ。羨ましいだろう」なんて威張っていたのがいけなかった。律が小学五年生になる頃には、このやり方で注目を浴びるとは出来なくなった。クラスメイトのほとんどが、律を“嫌な奴”だと認識していた。
金持ちのボンボンで、嫌な奴で、デブ。
運動はてんでダメ。勉強は出来るが、出来ない人をバカにする。
そのうち律は男子からはいじめられ、女子から無視されるようになっていった。
中学生になったらその状況も変わるだろう。律は楽観視していたが、その淡い希望は入学式で簡単に打ち砕かれた。
小学校のクラスメイトたちが律と同じ中学へ進学し、彼がどんなに“嫌な奴”なのか、新しい友人たちに吹聴したのである。お陰で律は小学校時代と同じようにクラスメイトから避けられるようになってしまった。
おまけに初対面の先輩から呼び出しを喰らい、「金持ちなんだろ。俺らに恵んでくれよ」と金を巻き上げられるようになった。暴力もしょっちゅうだった。小学生の時は池に突き落とされるのが関の山だったが、中学生となると“プロレスごっこ”とは名ばかりの暴力行為が律に襲いかかった。
(何なんだよ。僕は何も、していないのに)
下校を促すチャイムが鳴った。今までのことを思い出しながら、亀のような歩みで律は教室へ向かう。
そう、何もしていない。中学では何もしていない。
(あれから僕も気を付けたさ。出る杭は打たれる。自慢ばかりじゃ嫌われる。だから中学では同じ間違いをしないようにと……。なのに、何でだよ。悪い奴は、ムカつく奴は、生まれてから死ぬまでずっと、そのままの性格だとでも言うのかよ)
律だって成長したのだ。中学では独りになるのは嫌だった。友人が欲しかった。
(なのに、あんまりだ)
両親に泣きつくことも考えたが、律はそうしなかった。小学生の時、一度だけ両親にいじめを訴えたことがあった。しかしそれは、更なるいじめを助長しただけだ。担任教師からの注意があっても、3日経てば再びいじめが始まったのだった。
きっと今回も同じ結果になるだけだ。そう思って、律は両親にいじめを悟られないよう、細心の注意を払っている。制服は密かに三着用意し、汚れてもいいように着回した。洗濯で落ちない汚れはクリーニングに出している。両親から貰う小遣いは、学生のそれを超えているのだ。
今日もクリーニングに出す汚れだな、と律は鉛のように重い足を動かして、教室に入った。まずは着替えなければ。
「千畳敷くん?」
まるでロボットのように無機質な呼びかけだった。健康管理AIの呼びかけにも似ていたが、いや、そもそもあのAIは律を「律様」と呼ぶように設定している。
(まるで友人に呼ばれたみたいだ)
「千畳敷くん。聞こえていますか」
いや、みたい、ではなかった。
窓際の席の方、仮想ディスプレイを立ち上げ、律をじっと見つめる女子生徒がいる。
「あ……、僕?」
たっぷり一分かけて返事をしたのは仕方がない。まさか、クラスメイトから話しかけられるとは思わなかったのだから。
「ここ、3組だよね?」
少女は訝しげにうなずいた。
「……? ええ、ここは1年3組の教室ですよ、千畳敷くん。私はあなたのクラスメイトであり、あなたと同じクラス委員長です。今日の放課後はやることがあるので残るようにと言われましたが……。覚えてないんですか」
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